第三編 債権/第二章 契約/第一節 総則/第二款 契約の効力
民法 第536条(債務者の危険負担等)
重要度は過去問の出題年度などをもとにした当サイトの評価です。
この条の要点
- 債権者帰責の履行不能と利益償還:債権者に帰責事由がある履行不能では反対給付義務は残るが、債務者の利益は償還される。
- 履行不能における無催告解除との関係:履行が不能なら解除に催告は不要。催告が要るのは履行できるのにしない遅滞の場合。
条文原文
色付きの語句は試験で問われる重要な語句です。
第536条(債務者の危険負担等)
当事者双方の責めに帰することができない事由によって債務を履行することができなくなったときは、債権者は、反対給付の履行を拒むことができる。
②債権者の責めに帰すべき事由によって債務を履行することができなくなったときは、債権者は、反対給付の履行を拒むことができない。この場合において、債務者は、自己の債務を免れたことによって利益を得たときは、これを債権者に償還しなければならない。
条文の要点
危険負担とは、双務契約の一方の債務が履行不能になったときに、相手方が反対給付を拒めるかを定める仕組みです(536条)。
双方に帰責事由のない履行不能では、債権者は反対給付を拒めます(債務者主義)。債権者の受領遅滞など債権者の帰責事由による履行不能では反対給付を拒めず、債務者は免れたことで得た利益を償還します。
危険負担の帰責事由による帰属の違い
双方に帰責事由のない履行不能では、反対給付債務が当然に消滅するのではなく、その履行を拒む権利が生じます。契約を解消するには542条による解除もできます。債権者の帰責事由で不能になった場合は反対給付を拒めず、債務者は免れたことで得た利益を償還します。
| 項 | 役割 | 内容 |
|---|---|---|
| 1項 | 効果 | 双方に帰責事由のない履行不能では、債権者は反対給付の履行を拒める |
| 2項前段 | 効果 | 債権者の帰責事由による履行不能では、債権者は反対給付を拒めない |
| 2項後段 | 要件 | 債務者が債務を免れたことで利益を得たときは、その利益を債権者に償還する |
具体例
AがBに建物を売る契約をしました。引渡し前に、A・Bいずれにも責任のない隣家の失火で建物が全焼しました。
Bは代金の支払を拒めます。代金債務が当然に消えるのではなく、契約を解消するには全部の履行不能を理由に催告なく解除できます。
反例(結論が変わる)
同じ設定で、Aが適合する建物の引渡しを提供したのにBが受領を拒み、その遅滞中に同じ失火で建物が全焼した場合に変えます。
債権者Bの帰責事由による履行不能なのでBは代金を拒めません。Aは債務を免れて得た利益があればBに償還します。
関連条との違い
過去問で誤りとされた肢の型
- 行政書士令和4年 問30肢4
双方に帰責事由のない滅失でも代金支払請求に応じる義務があるとする誤り。反対給付債務の当然消滅ではなく、買主の履行拒絶権が認められる
- マン管令和6年度 問13肢3
債権者が履行の提供を拒んだ後の滅失で、債務者は代金を請求できないとした誤り。債権者の帰責事由による履行不能では反対給付義務が残る
ほかの誤り肢は「この条文を解説で参照する過去問」で確認できます。
法令版: 2026年6月24日施行版
この条文の〇×問題(2問)
債権者帰責の履行不能と利益償還
売買契約の締結後、買主の責めに帰すべき事由によって目的物が滅失し、売主の引渡債務の履行が不能となった。この場合、買主は代金の支払を拒むことができないが、売主は引渡義務を免れたことによって利益を得たときは、その利益を買主に償還しなければならない。
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正解 ○
正しい。民法536条2項は、債権者の責めに帰すべき事由による履行不能では債権者が反対給付の履行を拒めないとし、債務者が債務を免れたことで利益を得たときは償還義務を負うと定める。危険は債権者が負担し、利益償還で不公平を調整する構造である。
学習ポイント:債権者に帰責事由がある履行不能では反対給付義務は残るが、債務者の利益は償還される。
第536条2項
履行不能における無催告解除との関係
火災など当事者双方の責めに帰することができない事由によって債務の履行が不能となった場合、債権者は反対給付の履行を拒むことができるが、契約を解除するには相当の期間を定めて履行の催告をしなければならない。
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正解 ×
誤り。民法542条1項1号は債務の全部の履行が不能のときに催告なく直ちに解除できると定め、536条1項の反対給付拒否と併せて認められる。催告を要するのは541条の履行可能なのにしない場合で、履行不能に催告を求める規定はない。
学習ポイント:履行が不能なら解除に催告は不要。催告が要るのは履行できるのにしない遅滞の場合。
第536条1項、関連:第541条・第542条1項1号
根拠・関連条文
この条文を解説で参照する過去問
行政書士令和5年 問32肢4
Aが弁済期に甲を持参したところ、Bが甲を管理するための準備が整っていないことを理由に受領を拒んだため、Aは甲を持ち帰ったが、隣人の過失によって生じた火災により甲が滅失した。このような場合であっても、Bは、代金の支払を拒むことはできない。
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妥当である
受領遅滞中に債権者の責めに帰すべき事由なく滅失しても、受領遅滞のBは代金支払を拒めない(危険負担・民法536条2項/受領遅滞の効果)。妥当。
行政書士令和4年 問30肢4
動産甲が本件契約締結後引渡しまでの間にA・B双方責めに帰すことができない事由によって滅失したときは、Aの引渡し債務は不能により消滅するが、Bの代金債務は消滅しないから、Bは、Aからの代金支払請求に応じなければならない。
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誤り
双方帰責事由なき滅失ではAの引渡し債務は消滅し、Bの代金債務も消滅する(債務者主義・民法536条1項)。誤り。
行政書士令和4年 問30肢5
Aが本件契約に基づき動産甲をBのもとに持参して引き渡そうとしたが、Bがその受領を拒んだ場合、その後にA・B双方の責めに帰すことができない事由によって甲が滅失したときは、Bは、本件契約の解除をすることも、Aからの代金支払請求を拒絶することもできない。
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正しい
Bの受領遅滞中に双方帰責事由なく滅失した場合、危険は債権者Bに移転し、Bは解除も代金支払拒絶もできない(536条2項・受領遅滞)。正しい。
行政書士令和3年 問33ア
甲の引渡しの履行期の直前に震災によって甲が滅失した場合であっても、Bは、履行不能を理由として代金の支払いを拒むことができない。
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履行期前に震災で甲が滅失した場合、履行不能により売主の債務は消滅し、危険負担の原則(債務者主義)で買主は代金支払を拒める(民法536条)。誤り。
宅建令和3年12月 問9肢4
①と②の契約締結後、甲建物の引渡し前に、甲建物がEの放火で全焼した場合、①ではBはAに対する売買代金の支払を拒むことができ、②ではBとAとの間の賃貸借契約は終了する。
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正しい
正しい。売買では、当事者双方の責めに帰することができない事由によって引渡しができなくなったとき、買主は代金の支払を拒むことができ(民法536条1項)、賃貸借では、賃借物の全部が滅失して使用収益ができなくなったときは契約が終了する(民法616条の2)。
宅建令和2年10月 問5肢1
Aの責めに帰すべき事由によって履行の途中で委任が終了した場合、Bは報酬全額をAに対して請求することができるが、自己の債務を免れたことによって得た利益をAに償還しなければならない。
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正しい
正しい。委任者の責めによる中途終了では、受任者は報酬全額を請求できるが債務免除による利益を償還する(民法536条2項)。
マン管令和6年度 問13肢3
Aが自己の債務について履行の提供をしたにもかかわらず、Bがその債務の履行を受けることを拒んだ場合において、履行の提供があった時以後にAB双方の責めに帰することができない事由によって404号室が滅失したときは、Aは、Bに対し、代金の支払を請求することができない。
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誤り
誤り。履行の提供後に双方に帰責事由なく滅失した場合、債務者はその履行を免れるが、債権者は対価の支払を拒むことができない(債権者の危険負担)ためAは代金を請求できる。
マン管令和6年度 問13肢4
Aが自己の債務について履行の提供をしたにもかかわらず、Bがその債務の履行を受けることを拒んだ場合において、履行の提供があった時以後にAB双方の責めに帰することができない事由によって404号室が滅失したときは、Bは、Aの債務の履行不能を理由として契約を解除することができない。
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正しい
正しい。債権者が受領を拒み又は受けることができないときは危険負担が債権者に移転し、債務者は履行の責任を負わないので、履行不能による解除はできない。
問題で確認する
第536条の内容は2問の〇×問題と1問の条文穴埋めで確認できます。