第三編 債権/第五章 不法行為
民法 第709条(不法行為による損害賠償)
重要度は過去問の出題年度などをもとにした当サイトの評価です。
この条の要点
- 不法行為の保護対象となる利益の範囲:権利侵害だけでなく法律上保護される利益の侵害でも不法行為責任が生じる。
- 被害者の過失と賠償額の調整:被害者の過失は裁判所が賠償額の算定で考慮する事情にすぎず、請求を棄却するものではない。
条文原文
色付きの語句は試験で問われる重要な語句です。
第709条(不法行為による損害賠償)
故意又は過失によって他人の権利又は法律上保護される利益を侵害した者は、これによって生じた損害を賠償する責任を負う。
条文の要点
不法行為による損害賠償とは、故意・過失で他人の権利や法律上保護される利益を侵害した者が負う、発生した損害を填補する責任です(709条)。
不法行為責任の一般規定で、債務不履行のように契約関係を前提としません。侵害の対象は権利に限られず保護に値する利益も含み、被害者の過失は賠償額の調整事由にとどまります。
不法行為による損害賠償の成立要件
加害者の故意又は過失、権利又は法律上保護される利益の侵害、侵害と損害の因果関係が必要です。違法性を欠くと評価される行為や、故意も過失もない行為には成立しません。複数の加害者が関わる場面では、共同不法行為の規定が連帯責任を用意します。
| 項 | 役割 | 内容 |
|---|---|---|
| 1項 | 要件 | 行為者に故意又は過失があること |
| 1項 | 要件 | 他人の権利又は法律上保護される利益を侵害したこと |
| 1項 | 効果 | 侵害によって生じた損害の賠償責任を負う |
具体例
AがBの店の看板を故意に壊し、Bは看板の作り直し費用と営業損失を負いました。
Aは故意によるBの財産権侵害で、Bに損害を賠償する責任を負います。
反例(結論が変わる)
同じ設定で、看板が壊れたのがAの行為ではなく突風によるものだった場合に変えます。
Aに故意・過失による侵害行為がないため、AはBに賠償責任を負いません。
関連条との違い
過去問で誤りとされた肢の型
- 司法書士令和3年度 問9エ
占有を適法に取り戻した者は占有侵害の損害賠償を請求できないとする誤り。占有回収の訴えの賠償は不法行為責任の請求を指す
ほかの誤り肢は「この条文を解説で参照する過去問」で確認できます。
法令版: 2026年6月24日施行版
この条文の〇×問題(2問)
不法行為の保護対象となる利益の範囲
故意又は過失によって他人に損害を与えた者は、侵害したのが民法上の権利である場合に限り損害賠償責任を負い、権利ではないが法律上保護される利益を侵害した場合にはその責任を負わない。
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正解 ×
誤り。損害賠償責任が生じるのは他人の権利を侵害した場合に限られず、権利ではないが法律上保護される利益を侵害した場合にも責任を負う。営業上の利益など権利として確立していない利益の侵害でも不法行為が成立しうる。保護範囲を権利に限るのは誤り。
学習ポイント:権利侵害だけでなく法律上保護される利益の侵害でも不法行為責任が生じる。
第709条
被害者の過失と賠償額の調整
不法行為による損害賠償の請求において、被害者にも過失があったときは、被害者も損害の発生に寄与しているのだから、裁判所はその賠償請求を棄却しなければならない。
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正解 ×
誤り。被害者に過失があったとき、裁判所はこれを考慮して損害賠償の額を定めることができるが、請求を棄却しなければならないわけではない。被害者の過失は賠償額の減額調整にとどまる。全額賠償と請求棄却の二者択一にするのは誤り。
学習ポイント:被害者の過失は裁判所が賠償額の算定で考慮する事情にすぎず、請求を棄却するものではない。
関連:第722条2項、第709条
根拠・関連条文
この条文を解説で参照する過去問
行政書士令和4年 問3肢5
A市の公立小学校で成績の評価方法をめぐる対立が生じ、市民Yが教員Xを厳しく批判するビラを配布したところ、XがYに対して損害賠償と謝罪広告を求めて出訴した。
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妥当である
公立学校の教員の職務遂行への批判は『公共の利害に関する事項』かつ『公務員の地位における行動』への批判として、真実・公益目的なら違法性を欠く枠組みがそのまま適用される事例。
行政書士平成29年 問34肢4
医師の過失により医療水準にかなった医療行為が行われず患者が死亡した場合において、医療行為と患者の死亡との間の因果関係が証明されなくても、医療水準にかなった医療行為が行われていたならば患者がその死亡の時点においてなお生存していた相当程度の可能性の存在が証明されるときは、不法行為が成立する。
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妥当である
医療過誤と死亡の因果関係が証明されなくても、適切な医療が行われていれば生存していた相当程度の可能性が証明されれば不法行為が成立する(相当程度の可能性の判例法理)。妥当。
司法書士令和3年度 問9エ
Aが占有する動産甲をBが盗んだが、Aが適法に動産甲の占有を取り戻した場合には、Aは、Bに対し、占有回収の訴えにより、占有侵害により生じた損害の賠償を請求することができない。
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誤り
誤り。占有回収の訴えにより請求できる損害の賠償は不法行為に基づく損害賠償(709条)を意味し、占有を侵害したBに故意・過失があれば、適法に占有を取り戻したAでも損害賠償を請求できる。
宅建平成24年 問9肢1
BのCに対する損害賠償義務が消滅時効にかかったとしても、AのCに対する損害賠償義務が当然に消滅するものではない。
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正しい
正しい。使用者責任(民法715条)は被用者B自身の不法行為責任(709条)とは別個の責任であり、Bの賠償義務が消滅時効にかかってもAの賠償義務は当然には消滅しない。
マン管令和2年度 問2肢4
甲マンションの建設当時から、建物としての基本的な安全性を欠いていることが原因である場合には、建物の建築を担った設計士、施工業者、工事監理者は、特段の事情がない限り、Dの損害について、それぞれ連帯して不法行為に基づく損害賠償責任を負うことになる。
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正しい
正しい。建設当時から建物としての基本的な安全性を欠いていたことが原因なら、設計士・施工業者・工事監理者は不法行為に基づき連帯して賠償責任を負う(判例)。
マン管平成28年度 問16肢1
当該火災が成年Cの重過失による場合には、BのCに対する監督についての過失の有無にかかわらず、Dは、Cに対し、損害賠償を請求することができる。
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正しい
正しい。失火については重大な過失がある場合に限り不法行為責任を負う(失火責任法)。成年Cの重過失による失火であれば、CはDに対して民法709条の責任を負い、Bの監督過失の有無は関係しない。
管業平成29年度 問2肢1
甲の管理組合法人の防災担当理事Aが、過失により防災訓練実施中に区分所有者Bにけがをさせた場合、甲の管理組合法人とともにAもBに対して損害賠償責任を負う。
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正しい
正しい。理事が職務執行中の過失で他人を傷つけた場合、法人が責任を負うほか、理事個人も自己の不法行為責任を免れない。
問題で確認する
第709条の内容は2問の〇×問題と1問の条文穴埋めで確認できます。