第五編 相続/第四章 相続の承認及び放棄/第三節 相続の放棄
民法 第939条(相続の放棄の効力)
重要度は過去問の出題年度などをもとにした当サイトの評価です。
この条の要点
- 放棄の効果の遡及(初めから相続人でない):放棄は受理時以降ではなく相続開始時に遡って効果を生じる「みなし」規定である。
- 放棄後の相続財産の隠匿と法定単純承認:放棄後でも相続財産の隠匿・私的消費・悪意の目録不記載は単純承認とみなされる。
条文原文
色付きの語句は試験で問われる重要な語句です。
第939条(相続の放棄の効力)
相続の放棄をした者は、その相続に関しては、初めから相続人とならなかったものとみなす。
条文の要点
相続の放棄の効力とは、放棄をした者がその相続に関して初めから相続人とならなかったものとみなされることです(939条)。
効果は相続開始の時にさかのぼる絶対的なもので、登記がなくても放棄者の債権者による持分の差押えに対抗できます。放棄者の子に代襲は起きず、放棄者は債務も承継しません。
相続の放棄の効力の限界
放棄後でも、相続財産を隠匿したり私に消費したり悪意で目録に記載しなかったときは単純承認とみなされます。ただし放棄によって相続人となった者が承認した後はこの限りではありません。放棄時に財産を占有している者は、引き渡すまでの間は自己の財産と同一の注意で保存する義務を負います。
| 項 | 役割 | 内容 |
|---|---|---|
| 1項 | 効果 | 放棄した者は初めから相続人でなかった扱いになり、権利義務を承継しない |
| 1項 | 効果 | 効果は相続開始の時に遡及し、放棄者の分は残りの相続人や次順位者に帰する |
| 1項 | 効果 | 放棄は代襲の原因でないため、放棄者の子は相続人にならない |
具体例
Aが死亡し相続人は子B・Cで、Bが家庭裁判所に相続の放棄を申述して受理されました。
Bは初めから相続人でなかった扱いになり、Aの権利義務はCが承継し、Bの子も相続人になりません。
反例(結論が変わる)
同じ設定で、Bが放棄の後に相続財産の預金を隠して自分のために使い、Cがまだ承認していない場合に変えます。
放棄後でも相続財産の隠匿・私的消費は921条3号で単純承認とみなされ、Bは相続人として債務を負います。
関連条との違い
過去問で誤りとされた肢の型
- 管業令和元年度 問1肢4
放棄した者の子が直系卑属なら代襲するとする誤り。放棄は代襲原因でなく、子は相続人にならない
- 行政書士令和6年 問29肢4
放棄者の債権者の持分差押えを有効とし、他の相続人が無効を主張できないとする誤り。放棄の効力は絶対的で差押えは無効
ほかの誤り肢は「この条文を解説で参照する過去問」で確認できます。
判例
相続の放棄の効力の絶対性最高裁判所第二小法廷 1967年1月20日
相続放棄の効力は相続開始時にさかのぼり、登記等なくして何人にも生じる。放棄後に放棄者の債権者が未登記の相続不動産について代位の所有権保存登記をし、放棄者の持分に仮差押登記をしても、その仮差押登記は無効
法令版: 2026年6月24日施行版
この条文の〇×問題(2問)
放棄の効果の遡及(初めから相続人でない)
相続人が相続の放棄をした場合、その効果は放棄の申述が受理された時から将来に向かってのみ生じるのではなく、その相続に関しては相続開始の時にさかのぼって、初めから相続人とならなかったものとして扱われる。
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正解 ○
正しい。民法939条は、相続の放棄をした者はその相続に関して初めから相続人とならなかったものとみなすと定め、放棄の効果は相続開始の時にさかのぼる。したがって、放棄した者は承継した権利義務をもともと取得しなかったものとして扱われ、受理時以降に限り相続人でなくなるわけではない。
学習ポイント:放棄は受理時以降ではなく相続開始時に遡って効果を生じる「みなし」規定である。
第939条
放棄後の相続財産の隠匿と法定単純承認
相続の放棄をした者は初めから相続人とならなかったものとみなされるのであるから、その放棄の後に相続財産の一部を隠匿して私的に消費しても、相続の承認をしたものとみなされることはない。
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正解 ×
誤り。相続財産の全部又は一部を隠匿し、私にこれを消費し、又は悪意で相続財産の目録中に記載しなかった相続人は、限定承認又は放棄をした後であっても単純承認をしたものとみなされる。放棄の遡及効は、放棄後の背信的行為による法定単純承認の適用を排除しない。ただし、放棄によって相続人となった者が承認をした後はこの限りでない。
学習ポイント:放棄後でも相続財産の隠匿・私的消費・悪意の目録不記載は単純承認とみなされる。
第939条、関連:第921条3号
根拠・関連条文
この条文を解説で参照する過去問
行政書士令和6年 問29肢4
Bが相続を放棄したため、甲はCが単独で相続することとなったが、Cが相続登記手続をしないうちに、Bの債権者であるGが甲に関するBの法定相続分に基づく持分権につき差押えを申し立てた場合、Cは、当該差押えの無効を主張することができない。
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妥当でない
Bの相続放棄により甲がCに帰属した場合、放棄は相続開始時に遡及するため(民法939条)、Bの債権者Gの差押えは無効と主張できる。『主張できない』は誤り。
司法書士令和7年度 問8ウ
甲土地を所有するAが死亡し、Aの子B及びCのうちBが相続の放棄をしてCがAの唯一の相続人となった場合には、Bの債権者Dが甲土地をBも共同相続したものとしてBのその持分を差し押さえたときであっても、Cは、Dに対し、甲土地の単独所有権の取得を主張することができる。
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正しい
正しい。相続放棄の効果は絶対的で、放棄者は初めから相続人でなかったものとみなされる(939条)。Bの債権者Dの差押えは存在しない持分への差押えであり、Cは登記なくしてDに対抗できる(判例)。
司法書士令和7年度 問21オ
被相続人Aの子Bが相続の放棄をした場合には、Bの子Cは、Aの相続人とならない。
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正しい
正しい。相続放棄をした者は初めから相続人でなかったものとみなされるため(939条)、その子Cには代襲相続は発生しない(887条2項の代襲原因に放棄は含まれない)。
司法書士令和2年度 問22オ
Aが死亡し、その相続人がAの子B,C及びDである場合において、Bが相続の放棄をしたときは、C及びDは共同して限定承認をすることができる。
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正しい
正しい。限定承認は共同相続人の全員が共同してのみすることができる(民法923条)が、相続放棄をした者は初めから相続人でなかったものとみなされるため(民法939条)、残りのC・Dのみで限定承認できる。
宅建令和7年 問5エ
Bが相続放棄をしたとき
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代襲しない
代襲しない。相続放棄は初めから相続人でなかったものとみなされ、代襲原因に含まれない(民法887条2項・939条)。
管業令和5年度 問40肢4
管理費の滞納者が死亡し、その相続人全員が相続放棄した場合は、いずれの相続人も滞納管理費債務を負わない。
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正しい
正しい。相続放棄した者は初めから相続人とならなかったものとみなされ、債務を負わない。
管業令和元年度 問1肢4
被相続人Aの子Bが相続の放棄をした場合において、Bの子CがAの直系卑属であるときは、CがBを代襲する。
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誤り
誤り。相続放棄をした者は初めから相続人でなかったものとみなされ、その子は代襲相続しない。
問題で確認する
第939条の内容は2問の〇×問題と1問の条文穴埋めで確認できます。